STUDENTS & TEACHERS いち押し BOOKS 


『浦島タロウ未来編』 三ツ野豊著 (鳥影社1998.9)

 ちょっと難しいところもありましたが、感激の一書でした。民話の浦島太郎を単にSF風にもじって描いたのだろうと思って読み始めたら、これがただのSFではなく、内容的にかなり高度なものでした。本の帯にも書かれているように、天地創造から遥かな未来まで、歴史を追って人々の生き様が描かれていて、壮大な叙事詩といった感じがあり、手塚治虫の『火の鳥』を思い出してしまいました。アトアという名前で出てくる乙姫と「タロウ」は長大な歴史の中で何度も生まれ変わり、出会いと別離の中でしだいに互いの関係の意味を知ってゆきます。そしてその過程で宇宙の持つ神秘と不思議を垣間見る、といったストーリーです。ただ小説全体に心理学や現代物理学、遺伝学や進化論など、いろいろな学問的な表現が出てきて、どこまでが本当の学説で、どこからが作者の創作なのか、分からない面もありました。私にもっと知識があれば分かったのかもしれませんが、それでも説明が平易なので十分楽しめました。また聖書に書かれた出来事を扱ったところもたくさんあって、私にはそういう知識はないけれども、聖書をよく知っている人ならもっと面白く読めたのではないかと思います。最後に、この本の作者が札幌大学の卒業生だということで、感慨を新たにしました。ぜひ札大の学生に読んでほしいと思います。(外国語学部3年 小西奈津美)


『カラフル』 森絵都著 (理論社1998.7)
『おれがあいつであいつがおれで』 山中恒著 (理論社1998.7)

【学生】:先生、最近評判の森絵都の『カラフル』という小説読みました?
【教員】:あれだろ、なんだあの…よくある何かのきっかけで人格の入れ替わる、最近じゃ北村薫の『スキップ』とか東野圭吾の『秘密』、ちょっと前の児童文学なら山中恒の『おれがあいつであいつがおれで』とか、山中のはえ一と、え一と尾道を舞台にした映画監督のそれ、その大藪春彦じゃなくて大林宣彦の『転校生』。君あれ見なかった?三谷幸喜と結婚した小林聡美がなかなか可愛かったんだけどね。三谷め、クソ…。
【学生】:先生また下品なことば使って。それに少し「老人力」がパワーアップしてません?
【教員】:山中の本は最近再刊されたんだけど、「男は男らしく、女は女らしく」ということのイカサマを79年に『小6時代』という小学生向けの学習雑誌に連載したというのがなかなかじゃない。もっとも今じゃ「性同一性障害」なんて現実の方がお話の先をいってしまったということはあるけどね。
【学生】:でも先生そんなに人格の入れ替わりとか、魂の入れ替わりの話って多いんですか?,
【教員】:男と女の入れ替わりでは日本の古典に「とりかへばや物語』というのがあるじゃないか。それから死者がもう一度人生をやり直すといって地上へ戻されるところで、人格が入れ替わるというのはよくあるかな。映像的に処理すると面白いという点で映画によくなるね。覚えている限りでも古いものではJ・スチュアートの『素晴らしき哉、人生』とか、最近ではS・シェパードの『ワン・モア・タイム』とか。『転校生』のように男と女が入れ替わって男社会をからかうような味付けのものでエレン・バーキンが主演した『スウィッチ』。これは女たらしの男が女友だちに殺されて、天国の入り口で悪魔と神様が賭けをして魂が地上へ送り返されたときに女の身体の中に戻るという話。ちょうど『おれがあいつであいつがおれで』と『カラフル』を併せたような味の映画だったね。
【学生】:それ面白そうですね。それで、先生『カラフル』のほうはどんな話ですか?
【教員】:そうこれも自殺した中3の少年の魂が、もう一度他人の身体にホームステイをして生まれ変わりの再挑戦をするという話だよ。自殺の原因が現代日本の家族や、いじめの問題でてんこ盛りといってしまうと身も蓋もないか。でも、とにかく子どもの本といって馬鹿にしていると最近の日本ではほんとに面白い本を逃してしまうよ。騙されたと思ってこの2冊読んでごらんよ。(短期大学部助教授 松田潤)